ブログ / 逐語録の書き方

実務ガイド

逐語録の書き方 — 録音から仕上げまでの手順

公開: 2026-08-19 ・ 更新: 2026-08-19(逐語録向けの設定を追記) ・ 執筆: WhisperHUB開発者

逐語録が終わらない原因は、たいてい書く速さではありません。「どこまで書けばいいか」を決めないまま書き始めていることです。この記事は、用途ごとに基準を決めるところから始めます。

逐語録の書き方 — どこまで書くかを、先に決める
この記事は、面接練習の振り返り・研究のコード化・記録の作成で逐語録を作る人に向けて書いています。会話分析(沈黙を0.1秒単位で扱う研究手法)をする方には要求水準が足りません。その場合は後述の専門文献を参照してください。

逐語録とは何か — 文字起こし・議事録との違い

逐語録(ちくごろく)は、話された言葉を言い換えずにそのまま文字にした記録です。「えー」「あのー」といった言い淀みも、「うんうん」という相槌も、原則として残します。

一語一句そのまま書く、とはどこまでか

「そのまま」の範囲は、実は用途によって違います。ここが最初のつまずきどころです。

議事録との違いは「要約するかどうか」ではない

よく「議事録は要約、逐語録は全文」と説明されますが、本質的な違いは何を後から取り出したいかです。

取り出したいものだから残すもの
議事録決まったこと・やること結論と担当と期限
文字起こし話の内容読める形に整えた発言
逐語録言い方そのもの(間・ためらい・語順)発言のかたち全部

面接練習で逐語録を作るのは、自分の言葉づかいを見るためです。研究で作るのは、語りをコードに切り分けるためです。どちらも「何を言ったか」ではなく「どう言ったか」に用があるから、全部残します。整えた瞬間に、見たかったものが消えます。

逐語録が要らない場合

先に書いておきます。次の場合、逐語録を作るのは時間の無駄になりがちです。

どこまで書くかを、先に決める

ここがこの記事でいちばん言いたいところです。逐語録が終わらない人のほとんどは、基準を決めずに書き始めています。途中で「相槌も書くべきだったか」と気づいて戻り、また基準が揺れて、終わりません。

書き始める前に、下の表で自分の列を1つ選んでください。○の項目だけ書けば十分です。

用途別の早見表

拾うもの面接練習・試験研究(コード化)議事録・記録会話分析書くときの目安
言い淀み(えー、あのー)×試験の振り返りなら「多いかどうか」が分かればよく、全部は要らない
相槌(うん、はい)×相手の相槌は関係づくりの手がかり。研究では1つの発話として数える
沈黙×面接練習ではいちばん情報量が多い。秒数で書く
笑い×誰が笑ったかが分かるように、話者の行に置く
発話の重なり××厳密にやるなら会話分析の記号体系が要る。それ以外は注記で足りる
言い直し×考えが動いた瞬間が見える
方言・くだけた言い方×直さない
固有名詞仮名化仮名化そのまま仮名化Aさん・B社・C市。対応表は逐語録と別ファイルに置く
句読点最小限最小限整える打たない打ち方で意味が変わってしまう。研究では打ちすぎない

○=書く / △=気になったところだけ / ×=書かない

面接練習・試験対策 — 沈黙と相槌がいちばん情報を持つ

キャリアコンサルタントの養成講座や試験対策で作る逐語録は、採点のためではなく自分の関わり方を見るためのものです。だから完璧さより、見たいものが見えることが優先されます。

見るべきは主にこの3つです。

  1. 沈黙を待てたか。 相手が黙った直後に自分が話し始めていないか。逐語録に (3秒) と書いてあると、待てなかった箇所が一目で分かります。
  2. 伝え返しが要約になっていないか。 相手の言葉を自分の言葉に置き換えすぎていないか。
  3. 質問が続いていないか。 自分の発言が疑問形ばかり並んでいたら、それは面接ではなく聞き取りになっています。
逐語録は自分の発言(CC)と相手の発言(CL)を左右に並べる書式が広く使われています。ただし並べ方より、上の3つが読み取れるかどうかのほうが大事です。1列に上から並べる形でも振り返りはできます。

研究・コード化 — 発言と非言語を列で分ける

質的研究や看護研究でコード化まで進める場合、発言そのものと、沈黙や笑いなどの非言語を同じ欄に混ぜないでください。混ざっていると、あとでコードを付けるときに「これは語りか、状況か」を毎回判断し直すことになります。

実務的には、発話ごとに1行、列を分けるのが扱いやすい形です。

匿名化の水準は、倫理審査で約束した内容が最優先です。この記事の目安より審査書類が厳しい場合は、審査書類に従ってください。研究倫理まわりの整理は インタビューの逐語録を外部に出さずに作る に別途書いています。

会話分析をやる人へ — ここから先は別の体系

会話の順番交替や重なりそのものを研究対象にする会話分析(conversation analysis)では、上の表では足りません。沈黙を0.1秒単位で測り、発話の重なりの開始位置、音の引き伸ばし、音調の上下まで記号で書き分ける体系があります。ゲイル・ジェファーソンが確立した記法で、世界中の研究者が共通で使っています。

記号の一覧はこの記事には載せません。この記事の読者(振り返り・コード化)には過剰で、かえって手が止まるからです。会話分析をされる方は、次を参照してください。

逐語録の書き方 — 4ステップ

1. 基準を決める

上の早見表で自分の列を選び、○の項目をメモしておきます。ここに30秒かけるだけで、あとの数時間が変わります。

2. 下書きを作る

やり方は2つです。

どちらが速いかは、直す時間まで含めないと判断できません。精度が低い下書きは、手で打つより時間がかかることがあります。⚠️ この点について、私たちはまだ公開できる実測値を持っていません。出せ次第この記事に追記します(推測では書きません)。

手で打つときに効くこと

ツールを使わない場合、速さを決めるのはタイピングではなく再生の操作です。打つ手を止めずに音声を戻せるかどうかで、ほとんどの差がつきます。

3. 直す — 全部直さない

いちばん時間を溶かすのがここです。ゴールは「完璧」ではなく「1で決めた基準に足りている状態」です。優先順位をつけます。

  1. 話者の取り違え。 誰の発言かが違っていると、読み方そのものが変わります。最優先で直します。
  2. 固有名詞と専門用語。 意味が通らなくなる箇所だけ。ついでに仮名化もここで済ませます。
  3. 沈黙・笑い・言い淀みの書き込み。 ここは自動では埋まりません。沈黙の秒数は自分で測って入れます。 ⚠️ 言い淀みがそのまま出るかどうかは、使うモデルによって差があります(私たちはまだこれを実測していません)。 落ちていたら足す前提で見てください。ツール側の設定で気をつける点も後述します。
  4. それ以外。 助詞の揺れや細かい表記ゆれは、読んで意味が通るなら放置してかまいません。

4. 使う

逐語録は作ることが目的ではありません。面接練習なら気づきを書き込む、研究ならコードを付ける。ここに時間を残しておくために、3で止めどころを決めます。

書き方の細部 — 沈黙・相槌・笑い・言い直し

沈黙は秒数で書く

(3秒) のように、括弧に秒数を入れるのが分かりやすい書き方です。「…」だけだと、1秒なのか10秒なのかが後から分かりません。面接練習では、この数字が最大の情報になります。

秒数はストップウォッチで測らなくても、再生バーの時刻の差で足ります。1秒未満は (短い沈黙) でかまいません。

相槌を書くか書かないか

相手の相槌は書きます。相槌が減った箇所は、たいてい話が動いた箇所だからです。自分の相槌も、面接練習なら書いたほうがいい ——「はい、はい、はい」と重ねているのが可視化されます。

笑いは誰が笑ったかまで

(笑) と書くとき、それが誰の笑いかを分かるようにします。話者の行の中に置くか、2人同時なら (2人とも笑う) のように書きます。笑いは緊張がほどけた合図でもあり、話題を避けた合図でもあります。どちらかは前後を読まないと分かりませんが、記録がなければ読むこともできません。

言い直し・言い間違いは直さない

「転職——いえ、異動を」の —— の部分に、迷いが残っています。整えると消えます。明らかな言い間違いも、直さずに ((ママ)) と注記します。

固有名詞の仮名化と、対応表の置き場所

氏名・所属・地名は Aさん / B社 / C市 のように置き換えます。ここで大事なのは対応表を逐語録と同じファイルに書かないことです。同じファイルに書くと、匿名化した意味がなくなります。別ファイルにして、保管場所も分けてください。

テンプレート(無料・登録不要)

ここまでの内容をそのまま使えるように、Excelのテンプレートを置いておきます。登録もメールアドレスも要りません。自由に複製・改変して使ってください。

中身

手で打つ場合と、ツールを使う場合の違いはここに出る

このテンプレートの左4列(start / end / speaker / text)は、WhisperHUBの「表・CSV」書き出しと同じ並びにしてあります。書き出したCSVの2行目以降をA5に貼ると、この4列が埋まった状態から始められます。

start / end / speaker / text非言語・コード・カテゴリー
手で打つ自分で打つ自分で書く
ツールで下書き貼るだけ自分で書く

右の3列は、どちらのやり方でも自分で書くことになります。ここは自動化できない部分で、逐語録の中身そのものだからです。

逐語録テンプレートをダウンロード(.xlsx)

録音を外に出せない場合

逐語録の元になる録音は、面接・相談・診療・研究インタビューなど、外に出しにくいものが多いのが実情です。文字起こしツールを使う前に、確認しておくことがあります。

先に確認すること

端末内で処理するという選択肢

上の確認が面倒、あるいは「外部送信しない」と約束済みで動かせない場合、文字起こしをPCの中だけで完結させる方法があります。音声がネットワークに出ないので、送信の可否という論点自体が発生しません。

私たちが作っている WhisperHUB はこの方式のアプリです。ローカル文字起こしでは音声を外部サーバーへ送信せず、話者の振り分けも端末内で行います。上のテンプレートに貼れるCSV書き出しもここから使えます。

⚠️ 逐語録に使うなら、切っておく設定が2つあります

WhisperHUBは既定が「読みやすい文字起こし」向けに寄せてあり、そのままだと逐語録では消えてほしくないものが消えます。 設定 → 一般 →「テキストの補正」で、次の2つをオフにしてください。

設定既定逐語録ではそのままだとどうなるか
不要セグメントを無視オンオフ(笑)(拍手) が消えます。「ご視聴ありがとうございました」等の定型誤認識を消すための機能で、笑いも巻き添えになります
自動クリーンアップオンオフ(音楽) [BLANK_AUDIO] のような括弧で囲まれた注記がまとめて消えます

逆に、議事録や記録が目的なら既定のままのほうが読みやすいです。用途で切り替えてください。

⚠️ 混同しやすいので補足すると、「フィラー除去(ケバ取り)」は音声入力(ディクテーション)専用の機能で、 録音ファイルの文字起こしには掛かりません。ファイルから逐語録を作るときに「えー」「あのー」がAIで削られることはありません。
ただし万能ではありません。処理速度は使うPC次第で、話者の振り分けも完全ではありません(精度の限界はこちらに正直に書いています)。どのツールを使っても、3の「直す」工程はなくなりません。

よくある質問

15分のロープレで何文字になりますか

試験対策サイトでは4,000〜6,000字程度という目安がよく示されます。話す速さと沈黙の量で上下しますが、桁を掴む目安にはなります。

ワードとエクセル、どちらがいいですか

あとでコードを付けるならExcel、読み物として配るならWordです。研究や分析では、発言ごとに1行・コードを別列に置ける表形式のほうが圧倒的に扱いやすくなります。面接練習の振り返りだけなら、どちらでも困りません。

AIに任せていいですか

下書きまでは任せていいと思います。ただしそのまま提出できる品質にはなりません。話者の取り違え、固有名詞、専門用語は必ず残ります。「AIが起こして、人が直す」の2段構えが現実的です。ChatGPTやGeminiで文字起こしはできるか も参考にしてください。

話者が3人以上のときはどうしますか

話者の判別そのものが難しくなるので、録音の段階で対策するほうが確実です。冒頭で一人ずつ名乗ってもらう、マイクを話者の中心に置く、一人ずつ話す進行にする。この3つで後工程がかなり楽になります。詳しくは 話者分離の精度を上げる録音術 に書きました。

それでも似た声質の人が混ざると、自動でも手作業でも取り違えます。3人以上の逐語録では、話者の確認に時間を多めに見ておいてください。

逐語録は何分で作れるようになりますか

慣れよりも、基準が決まっているかどうかで変わります。この記事の早見表で○の項目を絞ると、同じ音源でも作業量が目に見えて減ります。速く打てるようになるより先に、書かないものを決めてください。

録音を外に出さずに、下書きを作る

アカウント登録もクレジットカードも不要。逐語録の下書きに使えるか、いつもの音源1本で確かめてください。
ローカル文字起こしでは、音声を外部サーバーへ送信しません。

WhisperHUBを無料で試す

7日間無料・全機能・macOS(Apple Silicon)/ Windows対応

開発

WhisperHUB開発者「アップロードしない、無制限の文字起こし。」を個人開発しています。機密音声を扱う方が安心して使える道具を目指しています。「どこまで書けばいいか」を決められる記事が見つからなかったので、書きました。

← 前の記事インタビューの逐語録を外部に出さずに作る